【マネタリーベースとマネーストック】
どうもminiいけ先生です。
突然ですが、世の中に出回っているお金ってどれぐらいだと思いますか?
2021年末に日本で流通しているお札は合計で122.0兆円(枚数では182.7億枚)でした。
これを積み重ねると、約1,827kmで富士山の約484倍の高さに達します。
この世の中を回っているすべてのお金のことをマネタリーベースといいます。
マネタリーベースとは異なった指標にマネーストックがあります。
受験生にとってこの2つの違いはすごく区別するのがややこし…と感じるところです。
かなりハイレベルな内容ですが、私立大学入試や共通テストでも見られるところです。
マネタリーベースとマネーストックの違いを図を交えながら、しっかり学んでいきましょう!
ちなみにですが2022年共通テスト本試では以下のような問題が出題されました。
今回の記事を読めばこの問題もすんなりとクリアできますよ。解答・解説は最後に載せておきます。
この記事でわかること
- マネタリーベース
- マネーストック
- マネーストック統計(M1,M2,M3,広義流動性)
- マネーサプライ統計とマネーストック統計の違い
マネタリーベースとは
マネタリーベースとは、「日本銀行が世の中に直接的に供給するお金」のことです。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と日本銀行当座預金(日銀当座預金)の合計値です。「日銀ホームページより引用」
何が何だかさっぱりです…
日本銀行券発行高?貨幣流通高?日銀当座預金?
難しく考えなくてOK!
- マネタリーベースとは日本銀行が世の中に供給するお金のすべてを指します。
- マネタリーベース=日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金
「日本銀行券発行高」は紙幣のことです。世の中に出回っている紙幣の合計額のことをさします。紙幣を発行するのは権限を持つのは日本銀行です。そこで、紙幣のことを「日本銀行券(日銀券)」と呼ぶこともあります。
「貨幣流通高」は硬貨のことです。世の中に出回っている硬貨の合計額のことをさします。硬貨を発行するのは日本の「政府」です。造幣局で作られた硬貨はすべて政府の銀行である日本銀行に預けられます。
「日銀当座預金」は民間の金融機関が日銀に持つ口座にある残高のことです。民間の金融機関は「市中銀行」ともいいます。市中銀行は「銀行の銀行」である日本銀行に口座を持っています。その口座のことを「日銀当座預金口座」といい、そこにある残高はマネタリーベースに含まれます。
2021年のマネタリーベースは、日銀当座預金が532兆4203億円>紙幣が119兆5994億円>硬貨は5兆634億円でした。
マネーストックとは
マネーストックとは、「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のことです。具体的には、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(金融機関・中央政府を除いた経済主体)が保有する通貨(現金通貨や預金通貨など)の残高を集計しています。「日銀ホームページより引用」
これも難しく考えなくてOK!
- マネーストックとは世の中に流通するお金の合計です。
- マネーストック=金融機関から供給されているお金の合計
マネーストックと一緒じゃないか…どう違うんだ…
これが受験生が混乱する原因か…
確かに言葉だけだと混乱するので下に図式化しておきました。
マネタリーベースが世の中に存在するすべての通貨の合計なのに対して、
マネーストックは世の中に流通する通貨の合計です。
マネーストックは、日銀が発行した通貨が実際にどのくらい市中に流れているかを示す指標と言えます。
注意してほしいのは市中に流れているお金のなかでも、
★マネーストックからは金融機関と政府が保有するものは除く!
ということです。これは必須事項です。
通貨と金融商品の種類
さて、マネーストックの内訳を見ていくうえで理解しておかなければならないのが、通貨と金融商品の種類です。1つずつ丁寧に見ていきましょう。
①現金通貨
紙幣と硬貨が現金通貨に該当します。
正式名称では「日本銀行券発行高」と「貨幣流通高」です。
②預金通貨
普通預金・貯蓄・当座預金(事業用の決済のための口座)などで構成されます。
これは個人や企業が保有するものです。
普通預金と当座預金はすぐにおろせるお金で「要求払い預金」ともいいます。
先ほども注意!と言いましたが、金融機関や政府が保有するものは除かれます。
③準通貨
準通貨には預け入れ期間を決めて利用する預金である定期預金や定期積金などが該当します。外貨預金もこれに含まれます。
一定期間預けることで利息がついて、いずれ現金化できるものですね。
④譲渡性預金(CD)
定期預金の一種で、満期日の前に第三者に譲渡できる預金です。
「(negotiable) Certificate of Deposit」の略で「CD」または「NCD」と呼ばれます。
準通貨である定期預金は第三者に譲り渡すことはできませんが、譲渡性預金は譲ることができるので急な資金需要にも迅速に対応できます。
預金証書のまま譲ることができるので、小切手のように使えます。
⑤投資信託(ファンド)
投資家から集めたお金をひとつの大きな資金としてまとめ、運用のプロである専門家が株式や債券 、不動産などに投資・運用する金融商品のことです。
運用がうまくいって利益が得られることもあれば、運用がうまくいかず投資した額を下回って、損をすることもあります。
⑥金銭信託
信託銀行などが利用者にかわってお金を管理・運用する金融商品のことです。
⑦金融債
金融機関が発行する債券(資金を借り入れるために発行するもの)です。
⑧銀行発行普通社債
民間企業が資金調達のために発行する債券のことです。
⑨金融機関発行CP
企業が事業に必要な資金を調達するために発行する短期の無担保約束手形のことです。 手形とは記載した金額を支払期日に支払うことを約束するために作成される書類のこと。
CP(コマーシャル・ペーパー:Commercial Paper)と呼ばれ、企業が直接金融で資金調達するという点では、社債と性格は同じです。
⑩国債・外債
国債は国(政府)が資金を借り入れたときに発行される借用証書の一種です。
外国のものの場合は外債とよばれます。
マネーストック統計(現在はこちら)
マネーストックはM1・M2・M3・広義流動性の指標にわかれます。
マネーストックのM1
M1は漫才の頂上決戦でもあります。
マネーストックにおけるM1は最も簡単に決済手段として用いることができる現金通貨と預金通貨から構成されています。
M1=現金通貨+預金通貨(預金通貨の発行者は全預金取引機関)
預金通貨はゆうちょ銀行、農業協同組合、信用組合などを含むすべての預金取扱機関の預金通貨が対象になっています。
2021年明治大学の入試問題で「M1とは、現金通貨に、一部の預金取扱機関が発行する預金通貨を加えたものである」との選択肢がありましたが、「一部の預金通貨」ではなく「すべての預金通貨」でした。これはいくら何でも難しすぎる選択肢です。
マネーストックのM3
先にM3を見ておきましょう。
こちらがマネーストックの代表的な指標になります。
M3=現金通貨+預金通貨+準通貨+CD(譲渡性預金)
日本のマネーストックにおけるM3の比率は上のグラフのようになっています。「日本銀行ホームページよりminiいけ先生が作成」
預金通貨と定期性預金を中心とする準通貨で全体の7割を占めます。
現金通貨はわずか5.7%であることにも注目です。
マネーストックのM2
M2はM3からゆうちょ銀行・農協・漁協などを除いたものになります。
預金の預け入れ先が限定されているものです。
M2=M3-ゆうちょ銀行などの預金を除く
2021年の明治大学の入試問題では「M2とは、現金通貨のほか、一部の預金取扱機関が発行する預金通貨に、準通貨を加えたものである」との選択肢がありましたが、CD(譲渡性預金)も加えないといけませんね。これも大学入試レベルを超えたものだと感じました。
広義流動性
M1・M3・M2ときて、これだけ名称が仰々しい感じがしますね。
その名の通り、マネーストック統計のなかでは、もっとも広範囲の流動性をカバーしている指標になります。
広義流動性=M3+投資信託+金銭信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行PC+国債+外債
広義流動性は、とにかくすべてを足したものですね。
ただし…せーっの「金融機関・政府の保有するものは含まない!」
マネーサプライ統計(現在はこれではない)
マネーストックはもともとマネーサプライといわれていましたが、2008年に見直しが行われました。
マネーサプライ統計では
- M1=現金+預金通貨(郵便貯金・農協などの預金は除く)
- M2=M1+定期性預金+CD(譲渡性預金)
- M3=M1+M2+郵便貯金+農協などの預貯金+金銭信託
マネーストック統計では
- M1=現金通貨+預金通貨(預金通貨の発行者は全預金取引機関)
- M2=現金通貨+預金通貨(ゆうちょなどの預金は除く)+CD(譲渡性預金)
- M3=現金通貨+預金通貨+CD(譲渡性預金)+準通貨
- 広義流動性=M3+投資信託+金銭信託+金融債+銀行発行普通社債+金融機関発行PC+国債+外債
<注意点1> マネーサプライのM1では郵貯が除かれていたが、マネーストックのM1では郵貯が含まれている
<注意点2> マネーサプライのM2とマネーストックのM3は似ている ※マネーストックのM3には郵貯が含まれている
最後に共通テスト2022年の問題の解説をしておきますね。
買いオペは金融緩和の政策なのでアには「緩和」が入ります。
Xの発言の空欄イのまわりを読むと「個人や一般企業が保有する通貨量」との記載があります。
Yの冒頭の空欄イのまわりを読むと「増加するかどうかは、個人や一般企業の資金需要と市中銀行の貸出が増加するかどうかによるよ」との記載があります。
この2つのことから、世の中に出回っているお金の量である「マネーストック」が埋まることが分かりますね。
マネタリーベースを増やす政策をしても、市中銀行でストップしてしまうとマネーストックは回らないということが最後のXの会話で分かると思います。
これは現在の日銀の政策とマネーストックの関係性を理解するうえで勉強になる文章ですよ。
最後にもう一度下の図を頭の中に叩き込んでおいて下さいね!
以上今回の記事はここまで!