【ウクライナ危機とは】

時事問題

なぜロシアはウクライナを攻めようとしている?

「プーチン氏なお強硬 欧州安保、米欧の回答に不満」

2022年2月2日の日本経済新聞ではこのような文字が踊りました。
ロシアがウクライナに攻め込むのではないかとの報道がテレビや新聞では多くなされています。
いったい何が起きているのか、いったい何が原因なのか、分からない人も多いと思います。

この記事でわかること
ロシアがウクライナに侵攻しようと考えている理由
②開戦の口実と開戦時期
③アメリカと欧州の思惑
④日本への影響

解説動画はこちら【緊迫するウクライナ情勢とは?】

ロシアがウクライナに侵攻しようとしている理由

ウクライナはヨーロッパとロシアに挟まれるところにあります。国土面積は60.4万㎢で、日本の約1.6倍です。
ウクライナは多民族国家でウクライナ人が8割、ロシア人が2割を占めています。
代表的な人物と言えばミランで活躍したシェフチェンコ氏や東京オリンピックのときに来日してその美貌が騒がれた柔道家ダリア・ビロディド氏がいます。

NATOは冷戦期において西側陣営(アメリカを中心とする資本主義諸国)がソ連に対抗するために組織した軍事同盟です。1949年発足時は12ヵ国の加盟国でした。NATOのルールは加盟国の一つの国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなして集団的自衛権を行使することなどがあります。

1991年にソ連が崩壊してからもNATOは拡大を続けています。2004年にはロシアの隣国であるバルト三国(エストニア・ラトビア・リトアニア)がNATOに加盟。東欧州にも加盟国は拡大し、最近では旧ユーゴスラヴィアだったクロアチア・モンテネグロ・北マケドニア(2018年にマケドニアから名称変更)も地図では青色に塗られています。1949年に発足時は12カ国だったものが、2022年2月現在では30カ国になっています。

ロシアとしては隣国で面積の大きいウクライナまでNATOに加盟することを恐れているわけです。1991年のソ連崩壊とともにウクライナも独立しましたが、ロシアはウクライナを兄弟国として特別視しています。ロシアはソ連時代から安全保障において緩衝材(クッションのような役割・軍事的バッファーゾーンともいうそうです)を大切にしているのです。ヨーロッパとの緩衝材であるため、ロシアにとって国防の観点からウクライナのNATO加盟は容認できません。

ウクライナの西部と東部では事情が異なる

ウクライナ国内では親欧米派と親ロシア派による権力闘争が続いています。西部と東部で言語も文化・歴史も異なります。

ウクライナの西部の人々はポーランドなどの文化や歴史に影響をうけており言語はウクライナ語を話します。そんな西部には史上最悪の事故が発生したチェルノブイリ原子力発電所があります。放射性物質の飛散を防ぐための巨大なシェルターに覆われるなど対策が続いていますが、35年以上経った今でも廃炉に向けた具体的な目途はたっていません。その維持費だけでも国家予算の1割を使っているといわれています。加えて西部の人々は旧ソ連時代に人口の4分の1が餓死させられた苦い経験をしています。こういったことから反ロシアの感情が強く、親欧米派の人々が多い地域となっています。


一方で、ウクライナの東部の人々はロシア語を話すロシア人が多い地域となっています。その地勢的条件のよさから発達した石油・天然ガスのパイプライン網の存在が経済に潤いをもたらしています。ウクライナの人口の多数はウクライナ人なのですが、東南部に位置するクリミア半島にはロシア人が多く住むため、多くの人たちがロシアへの編入を望んでいました。それに目を付けたロシアは軍隊を派遣し、クリミア内の親ロシア派を支援、親欧米派を弾圧しました。クリミアでは2014年にロシアへの編入を問う住民投票が実施され投票の結果、96.6%がロシアへの編入に賛成しました。その結果を受けてロシア議会はクリミアをロシア領土に編入することを承認したのですが、ウクライナ政府は内政干渉だと抗議しています。欧米はウクライナ政府の主張を支持し、クリミア編入を認めていませんし、ロシアに経済制裁を行っています。クリミア半島の編入を受けて、東部の親ロシア派が多いルガンスク州やドネツク州でも独立を求めた紛争が続いています。

ウクライナはNATOに入りたがっている?

ウクライナはヨーロッパで2番目に貧しい国であり、非常に高い貧困率です。さらに政治家の腐敗と汚職が続き、人々の不満を背景にクーデターがたびたび起きています。

現在の大統領はゼレンスキー大統領です。ゼレンスキー氏は元俳優で、ドラマでは平凡な高校教師から大統領となり、政治の腐敗と戦った人物を演じたこともありました。リアルの世界でもドラマさながらの圧倒的な得票率で大統領に当選。政治経験のない最年少大統領の誕生でした。外交面ではフランス・ドイツの仲介によりプーチン大統領と会談し、クリミア危機・ウクライナ東部紛争の停戦を内容とする共同声明を出しました。一方でクリミア危機への対応として欧米には、軍事支援を仰いでいます。

つまり、ウクライナはロシアを刺激せずにNATOに加盟して、集団的自衛権のもとアメリカやヨーロッパに守ってもらいたいと考えているんですね

しかし、ウクライナがロシアを刺激することをしてしまいます。それが2021年に制定された「先住民法」です。この法律ではウクライナ人やクリミア・タタール人など3民族が先住民族として認定されたのですが、ロシア人は除外されました。これに対してロシア検察は翌日欧州人権裁判所への提訴を発表しました。ロシアが特定の国に対して人権侵害を訴えるのはこれが初めてのことだそうです(訴えられているケースは欧州で断トツだそうですが…)NATOは「どの国がNATOに加盟できるかについてロシアに拒否権を与えることは受け入れられない」としていますが…。

NATOは

ウクライナが加盟するとロシアとの戦争になるかもしれないから嫌
ロシアの東欧拡大も嫌

というのが本音だと思います。

開戦は?時期はいつになるのか?

現在、国際法で合法とされている開戦の事由は以下の3つです。

  • 他からの侵攻があったときに自衛するとき
  • 相互安全保障条約を結ぶ国の防衛のため集団的自衛権を行使するとき
  • 国連による軍事的制裁

さすがにロシアが「NATOが東に拡大しているからウクライナをやっつけちゃうね」は上記3つのどれにも該当しません…。
ロシアが開戦するとしたら理由が必要になります。
もしかしたらロシアは偽装工作をして開戦の口実をつくるかもしれません。

ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力がルガンスク州とドネツク州で独立を宣言しています。
現在、ロシアでルガンスク州とドネツク州の独立承認の議決をプーチンに求めています。
議会を通過してプーチンが承認すれば「ルガンスク人民共和国」と「ドネツク人民共和国」が誕生するかもしれません。

その国をロシアが併合し、ウクライナからテロ攻撃を受けたと自作自演をすれば、自衛のための戦争・集団的自衛権の行使を口実に開戦ができるというわけです。

北京オリンピックでROCに拍手を送るプーチン大統領

開戦理由はでっちあげも考えられるわけですが、開戦時期には慎重になるでしょう。
というのも2022年2月4日~2月20日は中国の北京で冬季オリンピックを開催しています。
この期間に開戦すると中国のメンツを潰すことになります。
中国はメンツを重視する国ですから、五輪期間に開戦することは考えにくいです。
現に中国の習近平国家主席が「北京五輪期間中はウクライナ侵攻をやめるよう要請した」ことがBloombergの記事で紹介されていました。
首脳会談でこの冬季オリンピックでは新疆ウイグル自治区の人権問題を背景に多くの国が「外交ボイコット」をしていますが、プーチン大統領は開会式に参加しています。
中国との親密さをアピールすることが狙いだったと言われています。
開会式でプーチン大統領が、ウクライナ選手団の入場時にじっと目を閉じていたことがSNSで話題になっていました(ロシアは組織的ドーピング問題を理由に、東京五輪に続きロシア・オリンピック委員会(ROC)の選手として参加)。

ロシアは2月10日~2月20日に隣国で親ロシア派のベラルーシと大規模軍事演習を予定しており、演習の延長線上で侵攻するかもしれません。2014年のクリミア侵攻も軍事演習の延長線上で行ったので、今回も可能性はゼロではありせん。2月20日のオリンピック閉幕と同時に侵攻も考えられるわけです。そのころにはウクライナのぬかるんだ土地が凍った大地となり重武器を運ぶためのコンディションもよくなっているかもしれません。

開戦すればウクライナは圧倒的に不利

以上のことからロシアが侵攻するとすれば、南部のクリミア半島、東部のルガンスク州・ドネツク州、北部のベラルーシの3方向が考えられます。
迎え撃つウクライナは財政的に厳しいので軍事力は弱く、兵器も古いものが多いといわれています。とは言え、約14万5000人の兵力で対峙するわけですから、首都キエフでの戦闘になるとロシアも苦戦するとの見方があります。ロシアは金融システムや交通インフラを標的にしたサイバー攻撃や、ウクライナ議員を抱き込むための心理操作、ウクライナの不安を煽る情報操作など非軍事的手段を活用するハイブリット戦争になるとかもしれません。ウクライナとしてはNATOに加盟してロシアの脅威から守ってもらいたいと思うのも当然のことです。

ロシアへの経済制裁は各国で温度差がある

アメリカを中心とする西側諸国はロシアに対する経済制裁を考えているのですが一蓮托生というわけにもいかないようです。
1999年にNATOに加盟したハンガリーのオルバン首相は「ロシアは2014年のクリミア併合の時の各国からの経済制裁を乗り越えてきた。経済制裁に効果があるとは思えない」と発言をしています。
プーチン大統領はかねてから西側諸国による経済制裁に耐えるため対外依存度を下げるなど準備をしています。逆にハンガリーは2021年にロシアとの間で天然ガスの長期供給契約を結んでいるので、その供給が滞ってしまうと自国の経済に悪影響になるのです。

2021年9月に完成したノードストリーム2

似たような事情を抱えるのがドイツです。2021年9月にロシア産天然ガスをドイツに運ぶパイプライン「ノードストリーム2(Nord Stream 2)」の完成が発表されました(開通はまだ)。
原油がコロナからの経済回復やサプライチェーンの乱れ、OPECプラスの増産見送りなどで高値で推移しています。エネルギー不足が深刻な中で、ヨーロッパにおける需要の3割をまかなうといわれているノードストリーム2の開通はドイツにとっても待望でした。

ユーロ圏では消費者物価指数(CPI)が5.0%、ドイツでは5.3%とインフレが続いています。
急激なインフレは急激な経済の後退を招きかねません。
インフレをおさえていくことが至上命題になっている中で、ロシアからの天然ガス供給は必要不可欠です。
しかし、ドイツはNATOに加盟しているのでロシアのウクライナ侵攻は容認できません。
シュルツ首相は「ロシアがウクライナに侵攻したらノードストリーム2を停止する」と発言していますが、停止すると困るのはロシアではなくドイツ。

エネルギー価格の高騰もプーチン大統領を後押ししているのが現状です。アメリカはウクライナがロシアに対峙できるよう武器提供の協力を呼び掛けていますが、ドイツは危機下のウクライナに「ヘルメット5000個」を提供するにとどまりました。ドイツの苦悩が伺えます。

アメリカはNATOの中心としてバイデン大統領が「近いうちに東欧とNATO諸国にアメリカ軍を移動させる」と表明しましたが、先ほど記述した通り①ウクライナが加盟するとロシアとの戦争になるかもしれないから嫌②ロシアの東欧拡大も嫌という板挟み状態なのが本音でしょう。
1月末にはバイデン大統領は「ロシア軍がウクライナに〝小規模な侵攻”をした際に欧米は難しい対応を迫られる」と発言し、あたかも小規模な侵攻なら容認するような「失言」だと批判を呼んでいます。

ウクライナ危機が日本に与える影響

 

ここまでの経緯や各国の思惑は分かったけれど、日本には影響ないのでは?

ウクライナは広大で肥沃な国土と農業生産に適した気候なことから「欧州の穀倉地帯」といわれています。
小麦の生産量は世界第7位、輸出量は世界第5位です。とうもろこしは生産量・輸出量ともに世界第5位です。
ロシアも小麦・大麦・とうもろこしの生産が多いのに加えて、石油や天然ガスなどのエネルギー供給も多くしています。これらの国が戦争をするということは供給に乱れが生じるのも必至です。

それでなくても、現在のアメリカの消費者物価指数1990年12月以来の高い伸び率となっており国民は不満を募らせています。
バイデン大統領の支持率も低下しており、記者からインフレについての政治責任を問う質問があったときに「What a stupid son of a bitch.(何てバカなくそったれだ)」と悪態をついています。ヨーロッパの消費者物価指数も右肩上がりです。

回りまわって日本でも身近な商品の値上げが相次いでいます。日清フーズが家庭用小麦やパスタなど151品目を約3~9%値上げすることを表明。
ニップン(値上げ幅約1.5%~9.5%)・山崎製パン(値上げ幅平均7.3%)・カルビー(値上げ幅約7~10%)など小麦や穀物を扱う企業が次々に値上げを発表しています。
「デフレの象徴」と言われている牛丼も米国産牛肉などの食材費、 配送コストの上昇などが要因で値上げされています。
そして10円といえば「うまい棒」、「うまい棒」といえば10円でお馴染みの「うまい棒」も1979年発売以来の値上げが決定しました。
10円から12円となりましたが値上げ幅でいうと20%と大きなものです。世界的なインフレが日本の子どもたちの間食事情をも脅かしています。

ウクライナで戦争が勃発すれば、コロナからの経済回復が遅れいている日本は不況とインフレが混在するスタグフレーションが発生する可能性もあるのです。

永遠平和状態を目指すのは国家の義務 byカント

ウクライナ危機によって中国が「漁夫の利」を得るのではないかとの指摘もあります。

  • アメリカ軍が欧州情勢に注力するため、対中シフトが遅れる
  • ロシアが強気の姿勢を貫けば、中国も台湾海峡で強硬に出やすくなる
  • ロシアが侵攻すればアメリカの指導力が低下する

フランスのマクロン大統領とロシアのプーチン大統領は2月7日に5時間にもわたって会談をしましたが双方の思惑には距離があったようです。
このあとにマクロン大統領はウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領とも会談をするようです。

ドイツの偉大な哲学者カントは1795年に『永久(恒久)平和のために』を著しました。カントは平和状態は国際平和組織によって作られ、制度の下で保障されなければならないとしました。国家には、欲求に流されるだけでなく、自らに道徳法則を課す能力があり、永遠平和状態を目指すことを義務とすべきだとしています。プロセスを重視して平和状態を目指して努力することが各国に求められています。

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