【人の支配・法の支配・法治主義】

政治分野

どうもminiいけ先生です。

高校政治分野を学んでいくうえでまずは

政治とは何か?

について考えたいと思います。用語集によると

政治とは…
社会生活を営む人々の間で発生する考え方の相違や利害対立などを調整して、社会秩序を維持し、争いのない望ましい社会を実現するための機能。
山川出版社『政治・経済用語集』より引用

つまり、政治とはある範囲の人々全員を拘束してしまうような物事を決めることです。

ギリシャ三哲のうちの1人であるアリストテレスは
「人間はポリス的(政治的)動物である」と言いました。人間は社会集団内で生きる存在だという意味です。

人間社会における政治とは何かを考えたいと思います。

この記事でわかること

  1. 人の支配
  2. 法の支配
  3. 法治主義
  4. 法治国家
  5. 法の支配と法治主義の違い

解説動画【法の支配】

政治は昔からマイナスイメージ

政治の定義をもう一度。

政治とはある範囲の人々全員を拘束してしまうような物事を決めることです。

拘束をするということはある程度の権力を持たなくてはできません。
その権力をめぐって闘争が発生してしまします…

数々の偉人たちは政治を以下のように表現しています。

  • マックスウェーバー(ドイツの社会学者)
    「政治をするものは悪魔と手を結ばなければならぬ」
  • ビスマルク(ドイツの鉄血宰相)
    「政治は人間を堕落させる」
  • マキャベリ(イタリアの政治思想家で『君主論』の著者)
    「人間というものは恩知らずで、移り気で、陰険で、危険にあうと逃げ出し、そのくせ転んでもただでは起きない。利益を与えれば味方するが、いざ犠牲を捧げる段階になると、たちまち尻をまくって逃げ出すものだ」

政治は、ろくなものではないということがよく分かりますね。

欲望渦巻く社会の中で、人々をまとめあげるということは相当大変だということです。
そして、それをまとめようとするのも人なのです。

人の支配

  • 「人の支配」とは為政者(トップ)の意志が法であり、トップを縛るものは何もない支配形態をさします。

イギリスでは17世紀にジェームズ1世で絶対王政が復活しました。

国法の権力は神から授けられたものであるとする王権神授説を理論的柱として議会無視・特権商人に独占権・ピューリタン(絶対王政反対派)を弾圧しました。

支配者が法に拘束されることなく、超越して政治を行ったということです。

法の支配(rule of law)

  • 「法の支配」とは為政者の上に法をおき、すべての国家活動が法を基準に営まれるという原則を指します。

ジェームズ1世の「法の支配」を引き継いだ子のチャールズ1世も専制政治を展開します。

裁判官のコーク(クック)は「国王といえども神と法の下にある」と言い法の重要性をチャールズ1世に訴えました。コークのこの言葉は13世紀の裁判官ブラクトンの言葉を引用したものです。訴え虚しくチャールズ1世は法を無視し続けたためピューリタン革命につながります。

<法の支配のポイント>
君主や政府などの権力を「法」が縛る状態
権力者のうえに法をおく
憲法が最高法規
人権が尊重されている
法の内容と手続きが正当である
裁判所の役割を重視

法治主義(rule by law)

  • 「法治主義」とはトップが政治を行ううえで形式的にでも法にのっとっておけばよいとする概念

近代ドイツ法学に由来する法治主義では法は正しい手続きにのっとれば有効であって、法の内容の合理性・正当性は問いません。

ワイマール憲法を無力化したヒトラー

世界恐慌(1929年)の真っただ中の頃、ドイツ議会では左右の対立から怒号が飛び交い機能が麻痺、解散が繰り返されていました。
「決められない政治」に直面した国民にはナチスの主張が輝いて見えたことでしょう。
ナチスは公共事業による失業問題の解決、労働者への娯楽の提供、屈辱的なヴェルサイユ体制の破壊を成し遂げました。
しかし、表現の自由に対しての抑圧やユダヤ人等への残虐な仕打ちをしていたことは周知の事実です。

これを当時のドイツ国民は「見て見ぬふり」したのです。

ヒトラーは「大衆の支持を得ようと思うならば、我々は彼らを欺かねばならぬ。巧妙な宣伝をたえず用いれば、人々に天国を地獄と見せることも、その逆に、もっともみじめな状態を楽園のように見せることもできる」との言葉を残しています。
国民はナチスに分別なく服従することでマゾヒズム的欲望を満たし、一方でユダヤ人のような人種的政治的少数者を支配することでサディズム的欲望を満たすことができたと社会学者のフロムは分析しています。

ナチスがこのような権力を持てた理由は「法治主義」の“法律は正しい手続きにのっとれば有効で、法律の内容の合理性・正当性は問わない”という側面をついたからです。
ヒトラーは全権委任法を制定し、ワイマール憲法に拘束されず、立法権などを行政に全権委任するという形にすることで議会を形骸化させ、ファシズム・全体主義的独裁を成立させることに成功しました。

「法律によりさえすれば権利はどのようにでも制限できる」「国民は悪法といえども法である以上守らなければならない」という形式的な理解である形式的法治主義の極致が、委任立法を利用したファシズムの支配となったのです。

法治国家の2つの側面

法治国家は法治主義にもとづく国家のことをさします。

しかし、法治主義では法は正しい手続きにのっとれば有効であって、法の内容の合理性・正当性は問いません。

第二次世界大戦前までのドイツは先述した通り、形式的法治主義でした。それがファシズム支配を招きました。

この反省を踏まえてドイツでは、戦後に立法・行政・司法を直接的に拘束することを禁じる基本的人権が認められました。
さらにの権利を確保すために憲法裁判所を設置して、法が憲法に適合するかを審査する権限を与えました。いわゆる違憲立法審査権です。

このようにして、行政・司法が単に法律に適合しているという形式面だけでなく、その法律の目的や内容そのものが憲法に適合しなければならないという原則が確立されました。
このことから戦後ドイツは実質的法治主義といいます。

実質的法治主義≒法の支配なので現在の法治国家は「法の支配が成り立っている国」のことを指します。

法の支配と法治主義は違う

法の支配の目的は国民の人権を保障することにあります。
法の内容も国民の意志にもとづく必要があり、国民を代表とする議会が制定します。
治める者も治められる者と同様に法によって拘束されるべきとする考え方でイギリス法の原理です。

一方で法治主義の目的は、行政を効率的に運用することです。
何よりも法の存在を重視し、必ずしも内容を問わないというものです。
今日では、法に従って行動しようとする精神である遵法の精神」の意味で用いられることがあるドイツで発達した考え方です。

<法の支配と法治主義の共通点>
両者ともに「法によって権力を制限」しようとする
<法の支配と法治主義の相違点>
法の支配のいう法は人権保障・国民の意志を尊重する(イギリスで発達)
法治主義のいう法は内容と関係のない形式的な法である(ドイツで発達)

上記の2つは論述問題でも気を付けておきたい点です。

 

 

人気記事必読!公共・倫理・政治経済で9割取る方法