【デフレーションとは】
どうもminiいけ先生です。
今回はデフレとスタグフレーションについて見ていきたいと思います。
前回のインフレ(詳細はこちらの記事)と同様にお金の回りについて考えます。
現在の経済システムにおいての通貨制度は、管理通貨制度が採用されています。(詳細はこちらの記事)
この通貨制度のもとで起きる経済現象であるデフレーションとは何かについてみていきましょう。
今回の記事でわかること
- デフレーションとは
- デフレーションの特徴
- デフレーションから脱却するために
- スタグフレーションとは
解説動画はこちら【金本位制・管理通貨制・インフレ・デフレ】
デフレーションとは
経済は主に家計・企業・政府三つの経済主体と金融機関がお金をぐるぐる回しています。(詳細はこちらの記事)
経済主体の中でお金のやり取りが活性化すれば、景気が良いし、お金のやり取りが少なかったら景気が悪くなります。
バブル崩壊後の日本はお金のやり取りが少ない低成長期間が30年にもわたっています。
この低成長に陥った一番の要因がデフレーションです。
デフレーションは以下のような連鎖で発生します。
日銀が供給するマネタリーベースが減少する ⇒市場に流通する通貨量が減少する ⇒金融機関の貸し渋りが発生する ⇒多くの会社が資金調達に困る ⇒企業業績が下がる⇒社員の給料が下がる ⇒社員やその家族が商品を買わなくなる ⇒商品を買う人が少ないと商品の値段が下がる(超過供給) ⇒多くの会社が安くて売れない商品の製造をやめる ⇒商品の材料の値段も下がる ⇒材料の製造をしている会社も損をする ⇒損をすると社員も必要なくなるから募集も減る ⇒企業がリストラクチャリング(再構築)のため社員をクビにしたり、社員の給料の引き下げが行われたりする ⇒失業率が増加し、家計はますますモノを買わなくなる⇒企業業績が下がり、企業は社員に支払う給料を減らし、さらに商品値下げする…
通貨の価値が上がり、物価が下落し続けることをデフレーションと言います。
略してデフレです。
デフレでは景気が後退気味になり、資金需要が減り、金利も下落していきます。
通貨供給量が減少するため、通貨の価値が上がります。
デフレでは物価が下がり、通貨の価値が上がるということはおさえておいて下さい。
実はデフレーションの定義は曖昧
デフレには様々な定義があります。
経済学者の竹中平蔵氏は
「デフレという言葉を使う場合、単に物価が下がるという意味だけでなく、物価が下がることと経済の悪化が一体となっている状態を指す場合もある」
と指摘しています。
他にも「デフレとは、物価の下落と需要の縮小が同時に進行する状態」「デフレとはカネを持つことへの執着である」などの指摘もあります。
最近の見解では、物価が下落するだけでなく、需要も縮小し、景気も停滞する現象を指すようです。
しかし、日本では旧経済企画庁(現在の内閣府)では見解が異なるようです。
もともとは「物価の下落を伴った景気の低迷」をデフレの定義としていたのですが、2001年3月より「持続的に物価が下落している状態」と定義を変更しています。
30年にもわたるデフレの継続は、日本経済にとって戦後初めての経験であり、また戦後の他の先進国においても例がありません。
その中で景気上昇局面もありましたが、デフレからの脱却は依然なされていません。
このことから、内閣府の定義から「景気の低迷」が削除されたのかもしれません。
デフレーションの特徴
IMFや内閣府は「2年以上の継続的物価下落」をデフレと定義しています。
いったんデフレになると、モノの値段が下がるので、企業業績の悪化から賃金が減少し、消費の減退につながり、さらに物価が下がるといった現象が起きます。
このように物価下落と景気後退が螺旋階段のように起こる悪循環を「デフレスパイラル」といいます。
この図のような感じで螺旋階段上に景気が下がっていく様子です。
「すごいなこれ、仕入れ値を完全に割り込んでいるぞ」と言っている島耕作、『知識ゼロからの経済学入門』より引用しています。
デフレスパイラルの結果、2000年代前半の日本ではマクドナルドのハンバーガーが1個59円で販売されていたこともありました(2022年2月現在の価格は120円)。
特に2000年代前半はデフレが続いたのですが、これはデフレの象徴といえます。
デフレによる物価下落は経済成長を阻害します。
特に給料が上がらないこと、ゆえに消費活動が活発に行われないとなると社会全体の経済活動が停滞していきます。
経済活動が停滞するとリストラクチャリングによる失業率が増加するということがデフレの特徴といえます。
リストラクチャリングは略して「リストラ」と言われますが、クビを切るというマイナスの意味ではありません。
リストラクチャリングの本来の意味は「企業再構築」です。
企業において最もコストがかかるのが人件費です。
企業再構築をするうえで、最もコストのかかる人件費を削るために人員整理をすることが日本でリストラの定義になったのかもしれません。
有名な経済学者のケインズはインフレよりもデフレの方が害が大きいと述べています。
インフレは物価が上がり、通貨の価値が下落するため今まで蓄積してきた富に対して悪影響です。
そのため、富裕層にとっては損になる可能性があります。
一方でデフレ下では世界経済が低迷し、不況に陥ります。
先述したように企業は人件費を削ろうとするため、失業率が増加することになります。
ケインズはインフレで富裕層に損があるよりも、デフレで経済的弱者の失業者が増加することの方が経済への大きなダメージになると考えたのです。
デフレーションを脱却するために
企業や消費者が将来を不安に思い、節約や貯蓄をしてお金をあまり使わないようにしようとする「デフレマインド」が日本を覆っています。
デフレ時代に染み付いたデフレマインドが日本の経済成長を阻害する最大の要因となっています。
このデフレマインドを克服し、デフレから脱却するためにはどうすればよいでしょうか。
藻谷浩介氏の著書では以下の提言がなされていました。
経済を動かしているのは、景気の波ではなくて人口の波、つまり生産年齢人口=現役世代の数の増減だ。
デフレの原因は「個人消費が生産年齢人口減少によって下ぶれしてしまい、企業業績が悪化してさらに勤労者の所得が減って個人消費が減るという悪循環」だと藻谷氏は指摘されています。
そのための日本経済の目標を以下の3つと設定されていました。
- 生産年齢人口が減るペースを少しでも弱めよう
- 生産年齢人口が該当する世代の個人所得の総額を増やそう
- 生産年齢人口+高齢者による個人消費の総額を増やそう
そのための具体的政策は以下のものが挙げられます。
- 高齢富裕層から若い世代への所得移転の促進
- 女性就労の促進と女性経営者の増加
- 訪日外国人観光客・短期定住客の増加
- 企業は年功序列賃金を弱め、若者の処遇を改善する
他の先進国で見られないようなデフレの継続が日本で起こっているのは、100年に1度の不況といった景気循環の話ではなく、2000年に1度の生産年齢人口の減少といった構造的変化であるということに主眼をおいた主張は面白かったです。
興味のある方は是非ご一読を。
経済においては、家計・企業・政府の支出というものが非常に大事になってきます。
58.7%の支出を家計がしていることからも「家計が経済の土台」だということがわかります。
2019年の1世帯当たりの家計の支出の内訳を表したのが下のグラフです(消費者庁ホームページより引用)。
入ってきたお金(収入)と出ていくお金(支出)の余った分を可処分所得といいます。
家計の所得−租税・社会保険料で計算式は出されます。
また、家計の消費支出に占める食料の割合を表したものをエンゲル係数といいます。
このエンゲル係数が高くなればなるほど一般的には貧しい社会であるとされています。
さらに、資産効果というのもあって、家計が保有している株式や土地が上がると消費支出が増加するという傾向があります。自分の持ってる株とか土地価格が上がったら気持ちが大きくなるんですね。そして支出が増大するということです。
生産年齢人口を増加させて、家計の可処分所得を増やすことでデフレマインドから脱却したいところです。
スタグフレーションは「下痢なのに便秘」
最後に扱うのはスタグフレーションです。
これはもう最悪の状況です。
不況なのに物価が上昇するというです。
不況(stagnation)と物価が上昇(inflation)が合体してスタグフレーションという造語ができました。
日本は戦後2度スタグフレーションに陥ったことがあります。
1回目は1973年の第一次石油危機以降です。
高度経済成長が終焉に向かい生産が停滞、失業率が上昇していたにもかかわらず、石油価格が高騰したことによるコスト・プッシュ・インフレが発生しました。
2回目は2008年のリーマン・ショック以降です。
アメリカのサブプライムローン問題に端を発する世界金融危機が表面化していたのに加えて、産油国イランとイスラエルの軍事的緊張によるリスクの高まりで米国産標準油種(WTI)が7月に1バレル=147.27ドルの最高値を記録したことによるコスト・プッシュ・インフレが発生しました。
この状況になってしまうと薬が何も効かなくなります。
インフレの場合は通貨供給量を減らす政策、デフレの場合は逆に通貨供給量を増やすという政策をとればいいんですが、スタグフレーションの場合、どちらにも効く特効薬は無いんです。
このスタグフレーション、汚い表現をすると「下痢なのに便秘」。
下痢止めを飲んだらいいのか便秘薬を飲めばいいのか、非常に難しい問題なんですよね。
物価の番人とよばれる日本の中央銀行である日本銀行はどちらの局面でも機動的な対応がとれずに批判を浴びています。
2022年現在、世界では歴史的なインフレーション・ウクライナ危機による国際商品市況の価格変動・アメリカの利上げによるドル高円安など不透明感はぬぐえません。
日本はコロナ禍から経済が復活しておらず、景気後退とインフレーションが同時に訪れるスタグフレーションの危機に直面しているともいえます。
マクロ経済の視点で見ていくことが非常に大切な局面であると言えるでしょう。
以上、今回の記事はここまで!